大判例

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甲府家庭裁判所 平成3年(家)540号 審判 1992年11月24日

申立人 甲野三郎

相手方 乙林春子 外3名

主文

1  申立人、相手方甲野二郎、相手方甲野一郎は、別紙遺産目録記載一土地のうち7、8、11乃至15の各土地を、各3分の1の持分割合で共有取得する。

2  相手方乙林春子は、別紙遺産目録記載一土地のうち16の土地を単独取得する。

3  相手方甲野四郎は、別紙遺産目録記載一土地のうち1乃至6、9、10、17乃至44の各土地及び同目録記載二の建物を単独取得する。

理由

1  相続の開始及び相続人と相続分

被相続人甲野喜久兵衛は、昭和57年5月28日、山梨県北巨摩郡○○町において死亡し、相続が開始した。当時の相続人は同人の妻甲野秋子、長女乙林春子、長男甲野太郎(昭和46年8月23日死亡)の長男一郎(代襲者)、次男甲野二郎、三男甲野三郎、四男甲野四郎である。相続人甲野秋子は昭和63年4月20日死亡し、同女についても相続が開始した。被相続人秋子には固有の遺産はなく、喜久兵衛からの相続分のみである。これについては、本件当事者5名が相続人として相続した。従って現時点の相続人は表記の当事者であり、分割すべき遺産は被相続人喜久兵衛の財産のみである。

被相続人喜久兵衛と秋子には遺言はない。よって各相続人の法定相続分は5分の1ずつである。

2  遺産の範囲と価額

被相続人喜久兵衛の遺産は、別紙遺産目録記載一の土地、二の建物である(なお喜久兵衛は昭和14年7月29日前戸主矢久兵衛死亡により家督相続し、矢久兵衛は、大正9年3月1日前戸主留吉隠居により家督相続した)。

遺産目録記載の遺産の平成4年度の固定資産評価額は、遺産目録記載のとおりである。

3  分割についての各自の希望本件は、平成3年10月9日、審判の申立てがなされ、同日調停に付された。同年11月20日に第1回調停期日が開かれ、以後平成4年10月26日まで計7回調停が行なわれ、話合いが重ねられたが、相手方四郎の出席が得られず、第7回調停期日に不成立となった。

調停手続において、申立人、相手方一郎、同二郎の3名は、別紙遺産目録記載一の土地のうちの7、8、11乃至15の各土地を、上記3名で持分各3分の1の割合で共有取得することを希望し、また相手方乙林春子は、同目録記載一の土地のうち16の土地を単独取得することを希望した。相手方四郎は、第1回調停期日に出頭したもののその後の期日はすべて欠席し、家庭裁判所調査官による調査において意見や希望を聞いたが、明確に述べない。

相手方四郎を除く他の相続人は、早期解決のため各自が希望した上記遺産をそれぞれ取得できれば、他は取得しなくてもよく、たとえそれが法定相続分より少ない価額であっても異議を述べないので、それで審判をしてほしい旨述べた。

本件遺産の評価については、当事者全員が、平成4年度の固定資産評価額に拠ることに同意した。

4  具体的分割

本件遺産の平成4年度固定資産評価額は、総額813万5721円である。そうすると相続人各自の法定相続分に応じた額は、162万7144円(1円未満切捨て)となる。

しかるに、申立人、相手方一郎、相手方二郎が取得を希望した遺産の合計は、31万1143円で、その3分の1である各自の取得分は、10万3714円(1円未満切捨て)である。また相手方乙林春子が取得を希望している遺産は、12万2700円である。そして相手方四郎が取得することになるその余の遺産の合計は、770万1878円であり、これは相手方四郎の法定相続分をはるかに超えるものである。しかし相手方四郎を除くその余の相続人はこの額に同意しており、各自の上記希望物件を各自が取得しても、相手方四郎にとり取得額の上では有利でこそあれ何ら不利をもたらすものではないから(なお四郎が取得することになる土地の上に存した抵当権は申立人が調停中に抹消した。)、調停に出頭し意見を述べた各相続人の希望に従って分割することとする。

よって主文のとおり審判する。

(家事審判官 島田充子)

別紙 遺産目録<省略>

〔参考〕 抗告審(東京高 平4(ラ)1039号 平5.5.31決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一 本件抗告の趣旨は、「原審判を取り消し、本件を甲府家庭裁判所に差し戻す。」との裁判を求めるというのであり、抗告理由は、別紙「抗告理由」に記載のとおりである。

二 当裁判所も、原審判のとおりに別紙当事者目録記載の被相続人甲野喜久兵衛の遺産を、その相続人である抗告人及び相手方ら各人に分割してそれぞれに特定不動産を単独取得させることが相当であると判断するが、その理由は、以下に、抗告理由に関連して補足するほか、原審判理由記載のとおりであるから、これを引用する。

1 抗告人は、原審の審判事件に先立ち付された調停事件(甲府家庭裁判所平成3年(家イ)第×××号遺産分割調停事件)において、抗告人の意見を述べる機会が与えられなかったというが、右調停期日には抗告人及び相手方全員が呼び出されて各人の意見を述べる機会を与えられていたことはもとより、実際にも、抗告人が右第1回調停期日に自ら出頭し意見を述べ、右調停に応じられないとの意を表明し審判を申し立てたため、右調停は不調となり終了したことは、記録に照らし明らかである。また、抗告人が右調停の際に述べた意見がとおらなかったからといって、このことが原審判においても収集された証拠資料に基づき判断されていることは明らかであるから、そのことが原審判に影響を与えているとは、およそ考えられないことである。もっとも、抗告人は、原審の審判期日に出頭せず、しかも、原審裁判所が調査官をして抗告人の意見を求めさせているのに、はっきりした回答をしないなど右調査に非協力的であったことは原審判の理由中に記載のとおりであって、自らがこのような対応をとったことをさておいて、原審判の審理不十分等をいうことはできない。いずれにせよ、この点をいう抗告人の主張は失当である。

2 抗告人は、本件相続財産たる不動産(原審判別紙「遺産目録」に記載の土地及び建物、以下「本件不動産」という。)の全部ないし原審判により定められた取得分以外の不動産の一部をも抗告人において単独取得し、相手方らには金銭弁償する方法での分割をして解決を図りたい意向である趣旨の主張をもする。しかし、本件不動産は相続人間で特定不動産、特に土地を単独で取得する方法で分割取得させるに十分な筆数が存在すること、そのうち、競合しないかぎりは相続人らの希望する特定不動産を希望者に優先させて取得させる方法で分けていくこともできるほどの多数の不動産が存在することは、前掲「遺産目録」によっても明らかである。そして、遺産分割に関する相手方らの意見は、原審において照会、回収された回答書に明確にされていたことは前示のとおりであるところ、これらによれば、相手方らは、原審判において自己の法定相続分より少なくてもよいから希望する特定不動産が含まれる分割の結果であれば、その結果を甘受するとの意見表明をしており、原審裁判所は、これら相手方らの意見をも勘案して相手方らの希望する特定不動産を取得させるが、その取得分は総財産に対しては法定相続分に満たないものであってもよしとして、法定相続分に比してはるかに控え目に取得させることとし、これに対して、抗告人には、その法定相続分をはるかに超える相当筆数の土地と建物1個全体を抗告人に単独取得させる結果とする分割を決めているのであって、抗告人にとって、右原審判の採った分割方法とその判断の過程、結論についてこれを不十分という理由はないはずといわなければならない。そうすると、この点をなおも不服として、本件抗告の理由とする抗告人の主張は失当であって、採用することができない。

3 さらに、抗告人は、原審裁判所の決定した遺産分割の方法では、相手方らが取得することに決められた不動産の固定資産税等の公租公課は抗告人が従前から支払ってきていたのに、この点を考慮していない原審判には誤りがあるというようである。しかしながら、抗告人の取得不動産の総遺産に占める割合が、抗告人の法定相続分をはるかに超えるものであることは前示のとおりであって、さらに分割時点で金銭のやりとりにより既払分の公租公課につき相互に清算し合うことまでせずとも、すでに相続人らに各人に対する具体的取得不動産決定過程の中で相応の配慮がされているものと推察できるのであり、そのようにしても、決してバランスを欠く結果になっていない(少なくとも抗告人に不利な結果となっていない。)といえるのである。そうすると、この点に関する抗告人の主張も採用することができない。

4 その他、記録に現れた全資料によっても、原審判に不当、違法な点を見い出すことはできない。

三 よって、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。

(別紙)

抗告の理由

原審判は、抗告人が被相続人甲野害久兵衛所有名義の別紙遺産目録記載の土地及び建物の、県民税、町民税、その他、これら資産の合計額である固定資産税、これら資産を基準とする国民健康保険税の税額を考慮することなく審判をしたことは不当である。

尚、抗告人は相手方に対し金銭をもって支払う用意がある。

更に、調停手続において抗告人の意見や希望をのべる機会を与えなかった事は不当である。

よって抗告人は抗告の趣旨どおりの裁判を求めるため、この申立てをします。

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